ローン完済後シミュレーション ── 35年後の手残りを計算してみた

2026-06-13

不動産投資を長期で見ると、ローン完済後に収支の見え方が大きく変わります。
毎月の収支が小幅なマイナスでも、ローンの返済が終わった瞬間に、家賃から運営費を引いた分が手元に残る構造へと切り替わります。

ローンを完済したあと、手元には何が残るのか。
この記事では、以前の記事と同じモデルを使って、完済後の手残りを計算します。

結論を先に言うと、35年ローンの月次キャッシュフローの持ち出し合計は約252万円、完済後の税引前手残りは年約59万〜76万円。
取得諸経費150万円を自己資金で払う前提なら、自己資金ベースの合計は約402万円です。
持ち出しを回収する期間は、252万円ベースなら完済後3〜4年強、402万円ベースなら5〜7年弱の計算です。

前提 ── 別記事と同じモデルで計算する

前提条件は、別記事のなぜ"毎月赤字"でも不動産投資が成立するのかと同じです。

○物件:京都駅近 築10年RC 1DK 30㎡
○物件価格:2,250万円(取得諸経費150万円)
○ローン:2,250万円・金利2.0%が続く前提・35年元利均等
○月返済:約74,500円
○月賃料:85,000円
○月諸費用:約16,500円(管理費・修繕積立金・賃貸管理委託料・固都税月割)
○月キャッシュフロー:-6,000円(年-72,000円)

※あくまでモデル試算です。物件・金利・賃料・空室・修繕により変動します。

完済までの35年で起きること

35年間、月6,000円の持ち出しが続いたとします。

○月次キャッシュフローの持ち出し累計:6,000円 × 12ヶ月 × 35年 = 約252万円
○取得諸経費を含めた自己資金ベース:約402万円
○ローン残債:35年後にゼロ

252万円は、賃料・諸費用・金利が35年間変わらないベースケースの月次持ち出しです。
実際には空室、修繕、管理費・修繕積立金の増額、金利変動で増減します。

毎月の小幅な赤字の裏側で、ローンの元本は家賃が返し続けています。
35年後に残るのは、無借金の収益物件です。
ここから先は、家賃から通常の運営費を引いた税引前の概算手残りが、月次の収支として残ります。
実際には所得税・住民税、空室、原状回復、設備交換、大規模修繕の一時金などで変動します。

完済後の手残り(ベース:賃料維持)

まず、賃料が85,000円のまま維持できたケースです。

ここで注意したいのは、諸費用は35年前のままではない、という点です。
国土交通省の令和5年度マンション総合調査(2024年6月公表)では、修繕積立金は完成年次が古いマンションほど高い傾向があり、当初を低く設定して築年とともに段階的に増額していく方式も広く使われています。
そこで完済後の諸費用は、修繕積立金の増額を織り込んで月約22,000円に引き上げて計算します。

○賃料:85,000円
○諸費用:約22,000円(修繕積立金の増額を織り込み)
○手残り:月約63,000円(年約76万円/税引前・空室なしの概算)

賃料下落を織り込んだ中間シナリオ

築45年の賃料が新築時の水準のままとは限りません。
築年経過による家賃下落は、別記事の
家賃下落カーブの真実で整理したとおり、東京23区平均で年率0.4〜1.0%、35年累計で-25%程度です。

このカーブを機械的に当てると、購入時85,000円の賃料は6万円台半ばまで下がる計算になります。
一方で、一部の都市部では、民間賃料指数で2009年比2〜4割上昇しているデータもあり、賃貸需要が強い好立地であれば名目の賃料はむしろ維持・上昇するケースもあります。
ここでは中間的な値として、賃料70,000円を中間シナリオに置きます。

○賃料:70,000円
○諸費用:約21,000円(賃貸管理委託料が賃料連動で微減)
○手残り:月約49,000円(年約59万円/税引前・空室なしの概算)

より保守的に賃料65,000円で見れば、手残りは月約44,000円、年約53万円の水準です。
中間シナリオで見ても、完済後は年約59万円の税引前手残りが見込める計算です。

持ち出しは何年で回収できるか

35年間の持ち出し合計と、完済後の手残りを並べます。

○月次キャッシュフローの持ち出し合計:約252万円
○取得諸経費を含めた自己資金ベース:約402万円
○完済後の税引前手残り:年約59万〜76万円
○回収期間(252万円ベース):完済後 約3.3〜4.3年
○回収期間(402万円ベース):完済後 約5.3〜6.8年

月次キャッシュフローの持ち出し252万円だけを見ると、完済後の税引前手残りで約3.3〜4.3年で回収できる計算です。
取得諸経費150万円も含めると約5.3〜6.8年です。
その先は、条件が大きく崩れなければ、年約59万〜76万円程度の税引前収入源になる可能性があります。
月の持ち出しは、条件がそろえば、完済後の収入源を組み立てるための先行投資として見ることもできます。
また、保有を続けて家賃を受け取るだけでなく、無借金になった物件を売却して利益を確定する選択肢もあります。

退職金で繰り上げて、前倒しする設計

資金状況によっては、35年を待たずに前倒しできる場合もあります。

例えば30歳でこのローンを組むと、60歳時点(30年後)の残債は約425万円です(金利2.0%が続く前提)。
退職金の一部でこの残債を繰り上げ返済すれば、完済が5年前倒しになり、60歳から家賃が手残りに変わります。

○60歳時点の残債:約425万円(金利2.0%が続く前提)
○退職金の一部で繰り上げ完済
○60歳以降:月5万〜6万円台の税引前手残りが収入源に

金利が低く、手元資金に余裕があるうちは、急いで繰り上げ返済しない選択もあります。
手元資金を厚く持つほうが、空室や修繕への備えになります。
一方、退職のタイミングで残債を整理して、家賃を退職後の収入に切り替えるのは、完済時期を自分で設計できるという意味で合理的な選択肢の一つです。
このとき、残債は400万円台まで減っているので、繰り上げに充てる金額は退職金の一部で済みます。
それだけで月約74,500円の返済がなくなり、家賃が手残りに変わるので、退職金の運用先として見ても効率が良くなるとも考えられます。

完済後の注意点 ── 築45年の現実

完済後にリスクがなくなるわけではありません。
築45年のRC区分には、相応の論点があります。

大規模修繕や設備更新で、一時金や追加負担が発生することがある

管理組合が機能しているか(長期修繕計画・積立金の水準)が物件の価値を左右する

建て替え・旧耐震の論点は、別記事の築古マンションの見方で整理したハードルがそのまま当てはまる

空室や賃料水準は立地次第。完済後も賃貸需要が太い立地であることが大前提

保有を続けず売却する選択肢もある。売却と保有の考え方は、別記事の出口を一次データで描くで整理しています

完済後に手残りを生み続けやすいかどうかは、立地と賃貸需要の影響を大きく受けます。
賃貸需要が強い好立地は、家賃が下がりにくいだけでなく、売却時にも投資家から利回りで評価されやすい点が強みです。
35年後も人が借りたい場所か。
買う前に見るべきポイントは、最初から最後まで同じです。

まとめ

完済後シミュレーションを整理します。

○前提:別記事と同じモデル(2,250万円・金利2.0%・35年・月キャッシュフロー-6,000円)
○35年間の月次キャッシュフローの持ち出し合計:約252万円(取得諸経費を含めた自己資金ベースは約402万円)
○完済後の税引前手残り:年約76万円(賃料維持)/年約59万円(賃料下落を織り込んだ中間シナリオ)
○回収:完済後3〜4年強で月次持ち出しを回収、取得諸経費まで含めれば5〜7年弱、以降は税引前の収入源
○前倒し:退職金で残債(60歳時点約425万円)を繰り上げ完済する設計も選択肢

月の持ち出しは、条件がそろえば完済後の収入源を組み立てる先行投資として見ることもできる

完済後の諸費用は上がる前提で見る(修繕積立金は完成年次が古いほど高い傾向)

完済後も結局は立地と賃貸需要。35年後も借りたい人がいる場所を選ぶ


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