不動産投資で得した人、苦しくなった人の境界線 ── 元トップ営業が見てきた分かれ目
2026-05-24
私は元京都のワンルームマンションデベロッパーのトップ営業として、買う側に物件を勧めてきました。
その後 ONZA Estate の代表として、好立地の区分マンションを中心とした投資用物件の仲介を行う中で、過去に他社で購入した方の売却相談も多数受けてきました。
売る側・買う側・売却を手伝う側、3つの視点から損益の現場を見てきた立場から書きます。
結論を先に置きます。
不動産投資で得した人と苦しくなった人を分けるのは、運ではありません。
境界線は "物件選定の精度" と "出口を設計できているか" にあります。
この記事では、(1)不動産投資が長期で成立する4つの仕組み、(2)30年シミュレーション3パターン、(3)得する人の7条件、(4)苦しくなりやすいパターンの順で整理していきます。
著者の立場 ── 売る側・買う側・売却側、3つの視点から
私はキャリアの前半を京都のワンルームマンションデベロッパーで過ごし、新築の販売現場でトップ営業として数字を積んできました。
その時期に、購入後に順調に資産を伸ばしていった買主と、数年で苦しくなって売却に来た買主を、同じ営業部のフロアから両方見てきました。
現在は ONZA Estate の代表として、好立地の区分マンションを中心とした投資用物件の仲介を行っています。
仲介の立場では、過去に他社で購入した物件の売却相談を受けることが多いです。
「キャッシュアウトが想定より重い」「サブリースが切られた」「残債が売却価額に届かない」── 苦しい相談の現場にも立ち会ってきました。
だからこそ、この記事では "成功事例だけ" "失敗事例だけ" のどちらにも寄せません。
業界には「やめとけ」一辺倒の批判派と「絶対得します」一辺倒の営業派しかいないように見えますが、現実はもっと条件依存です。
境界線がどこにあるのか、数字と一次ソースで切り分けていきます。
不動産投資が長期で成立する4つの仕組み
まず前提として、不動産投資が長期で成立し得る理由を、4つの仕組みに分けて整理します。
①ローン元本返済による資産形成
毎月の返済額のうち、利息部分は経費ですが、元本返済部分はそのまま自分の資産(残債圧縮)として積み上がります。
②団体信用生命保険によるリスクヘッジ
商品や金融機関によって、団信の加入可否・保障範囲・金利条件は異なりますが、不動産投資ローンでも団信を付けられるケースがあります。
付保できれば、契約者に万一があった場合に残債が完済され、家族に無借金の資産が残ります。
団信のレバレッジについては別記事(団信のレバレッジ)で整理しています。
③減価償却を活用した課税所得の圧縮
建物部分は耐用年数に応じて減価償却費として経費計上できます。
会計上の赤字を給与所得と損益通算することで、課税所得を圧縮できる場合があります。
計算の中身は別記事(減価償却で給与所得を圧縮する仕組み)で詳述しています。
④完済後のインカム源化
ローン完済後は、家賃収入から運営費を差し引いた額がほぼ手残りになります。
キャッシュフロー源として機能します。
4つの仕組みの内訳の見方はキャッシュアウトでも成立する理由で整理しています。
ポートフォリオで見る不動産の役割
ここで一度、不動産を単独で評価するのではなく、資産全体の中での役割として見ます。
株式投資や為替投資は、流動性が高く配当・差益でリターンを取りに行く資産です。
一方、不動産は流動性が低い代わりに、レバレッジ(融資)を効かせられること、家賃という相対的に安定したインカムを得られること、団信で死亡保障を内包できることが特徴です。
収益構造も流動性も違うため、単純比較はできません。
つまり、給与所得・株式投資・為替投資・現預金・保険、これらと並べたときに、不動産は "レバレッジ付きインカム資産" として独自のポジションを持ちます。
ポートフォリオ全体で見ると、現金ではなくローンを使うレバレッジ商品として "他資産と並行運用" ができます。
マクロで見る現在地 ── 価格上昇とトラブル増加の二極化
不動産価格指数の長期推移
国土交通省が公表している不動産価格指数(マンション 区分所有・全国)は、2010年平均を100とした指標です。
この値が2025年には220を超える水準まで上昇しています。
価格指数だけを見れば、長期で大きく上昇してきたことが分かります。
ただし、株式投資や為替投資とは収益構造や流動性が違うため、単純比較はできません。
首都圏中古マンションの最新成約データ
より足元の数字も見ます。
東日本不動産流通機構(REINS)が公表した2026年3月度の首都圏中古マンション成約データでは、平均成約価格が5,521万円、前年同月比で +11.6% です。
17ヶ月連続で価格が上昇しており、平均成約単価は86万3,400円/m²、こちらは71カ月連続上昇となっています。
注目したいのは、平均築年数が27.24年という点です。
つまり "中古でも価格は伸びている"。
築古だから安く買い叩かれるという単純な構造ではなくなっています。
ここで挙げた数字はファミリータイプを含む首都圏全体の平均です。
すべてのエリアや物件にそのまま当てはまるわけではありませんが、好立地物件でも同じ方向の動きは現場で感じます。
トラブル件数で見る損した側の増加
価格が上がっているなら誰でも勝てるのか、というと、そうではありません。
国民生活センターが2019年3月に発表した資料では、20代の投資用マンション相談件数は2013年度の160件から2018年度の405件へと、5年で2.5倍に増加しています。
平均契約購入金額は2,000万円超。
強引な勧誘、利回り表示の誤認、出口戦略を持たないままの購入が典型例として挙げられています。
サブリース(家賃保証)契約のトラブルも増えています。
消費者庁のデータでは、全国の消費生活センターへのサブリース相談は2018年度に483件、2014年度の2倍超です。
これを受けて "賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律" が整備され、サブリース業者への規制は2020年12月15日から施行されました(賃貸住宅管理業者登録制度を含む全面施行は2021年6月15日)。
サブリース契約の締結前に、家賃減額や契約解除などのリスクを含めた重要事項説明が求められるようになりました。
サブリースでも、契約内容や法制度上、将来の賃料減額が起こり得ます。
「30年保証」は30年間同じ家賃が固定される意味ではありません。
この論点は別記事で詳しく整理しています(家賃保証30年の罠)。
価格は伸びている。
一方でトラブルも増えている。
同じ市場の中で、得する人と苦しくなる人の二極化が起きています。
30年シミュレーション ── 3パターンで見る境界線
抽象論だけだと伝わりにくいので、30年保有を前提に3パターンで並べます。
想定:35歳・年収700万円(限界税率約30%帯)・購入価格2,500万円・フルローン35年・金利2.0%・元利均等返済。
月返済額は概算で約8.3万円です。
| 項目 | A:好立地で成立 | B:横ばい | C:厳しいケース |
|---|---|---|---|
| 立地 | 主要駅徒歩7分・賃貸需要安定 | 準主要駅徒歩12分 | 郊外・駅徒歩15分 |
| 表面利回り(購入時) | 5.5% | 4.8% | 4.0% |
| 月家賃(購入時) | 約11.4万円 | 約10.0万円 | 約8.3万円 |
| 月運営費(管理費・修繕積立金・固都税等) | 約3.7万円 | 約3.1万円 | 約2.6万円 |
| 月キャッシュフロー(税引前) | -0.5万円 | -1.4万円 | -2.5万円 |
| 年節税効果(限界税率30%帯想定) | 約10万円 | 約10万円 | 約10万円 |
| 30年累計持ち出し(節税後・概算) | 約100万円 | 約400万円 | 約800万円 |
| 30年間の元本返済累計 | 約2,500万円(完済) | 約2,500万円(完済) | 約2,500万円(完済) |
| 30年後の想定売却価額 | 約1,800万円 | 約1,200万円 | 約700万円 |
| 30年累計の手取り評価(売却価額−累計持ち出し) | 約+1,700万円 | 約+800万円 | 約-100万円 |
あくまでモデル試算です。
実際は金利・賃料下落率・修繕費・空室期間・税率・売却タイミング・売却諸費用・譲渡所得税で大きく変動します。
節税効果は給与所得や経費計上の前提で変わります。
同じ自己資金・同じ年収でも、物件選定が違うだけで30年後に大きな差が出る構造を示すための数字としてご覧ください。
何が違いを生んだのか。
金利でも、ローン年数でも、本人の年収でもありません。
違うのは、物件選定の精度(立地・賃貸需要・利回り)、保有期間の設計、そして出口を見据えて買えていたかどうかの3点だけです。
10年で見た場合の差も補足
参考までに、10年保有・売却を前提にすると、A好立地パターンでは売却価額−残債で約450万円、Cの厳しいケースでは約-450万円となり、売却時点の残債差引だけで約900万円の差です。
10年間の累計持ち出しまで含めると約1,140万円の差になります。
表の数値からは売却諸費用・譲渡所得税は除いています。
得しやすい人の5条件
成立側に寄せる条件を、5つに整理します。
後段のチェックリストと同じ項目です。
①好立地 ── 駅徒歩・主要駅
賃貸需要が安定しているエリア、再開発や大学・企業集積で人の流れが安定している立地は、空室期間が短く、家賃下落も緩やかで、長期保有しても流動性が落ちにくいです。
駅徒歩とリセールバリューの関係は、首都圏・関西の公表データを使って別記事リセールバリューと駅徒歩で詳しく整理しています。
②賃貸需要が安定している
総務省データを基にした三井住友トラスト基礎研究所のヒアリングでは、築年数経過に伴う家賃下落は年率約1%程度が一般的な水準とされています。
好立地物件はこの平均より下落が緩やかになる傾向があり、立地が劣る物件は逆に平均より早く下がる、というのが現場での実感です。
築年数別の家賃下落の振る舞いについては別記事(家賃下落カーブの真実)で詳しく扱っています。
③長期保有を前提に設計する
不動産は値動きで短期に資産価値が増加する商品ではなく、すぐに売却できる商品でもありません。
短期前提で買うと、流動性の低さから売却時に値下げを迫られやすく、家賃インカム+元本返済の積み上げという不動産投資の本領も活かせません。
長期保有を前提に、家賃と残債圧縮で時間を味方につけるのが正攻法です。
不動産で時間を味方にする仕組みは別記事なぜ "毎月赤字" でもワンルーム投資が成立するのかで整理しています。
④出口を見据えて買う
不動産は市況が一時的に下がっても、保有を続けて待てるという構造上のメリットがあります。
だからこそ、購入時点で「どうなったら売るか」「どうなったら保有し続けるか」のパターンをそれぞれ想定しておくことが大切です。
詳しくは不動産投資の出口設計で整理しています。
⑤空室や修繕の出費を許容できる
どれだけ好立地でも、空室や修繕の出費は発生します。
許容できない収入水準で買うと、市況の谷で投げ売りに追い込まれます。
持ち出し許容度は購入前に必ず確認しておく項目です。
苦しくなりやすい購入パターン
逆に、売却相談で苦しい数字を見せられるケースには、共通項があります。
①販売経費を含む価格で高く買ってしまった
新築時の価格には、デベロッパーの利益・広告費・販売手数料などが含まれます。
そのため、購入後すぐに売ると、販売経費分などが反映されず、売却価格が購入価格を下回ることがあります。
下落幅は物件や市況によって変わります。
残債が売却価額を上回る "オーバーローン" 状態になりやすく、自己資金を持ち出さないと売却できないケースが出てきます。
②賃貸需要のない物件を家賃保証前提で購入
賃貸需要が薄いエリアの物件を、サブリースの家賃保証付きで購入するパターンです。
サブリースの保証は永続ではなく、家賃減額や契約解除のトラブルは現実に起きています。
賃貸需要が薄いエリアでは、サブリースが切れた瞬間に空室化し、本来の市場家賃が想定より大幅に低かったことが判明する ── これが典型的な失敗の流れです。
③表面利回りだけを見て購入
表面利回り = 年間家賃 ÷ 物件価格。
簡易的には、実質利回り = 年間純収入 ÷ 物件価格です。
年間純収入は、年間家賃から管理費・修繕積立金・固定資産税・原状回復費・空室損失などを差し引いた額です。
より厳密には購入時諸費用を含めて見る場合もあります。
表面と実質の差は、物件によっては1〜2%以上開くことがあります。
リフォームの相場感(壁紙張替 1,000〜1,500円/m²、フローリング張替 10,000〜30,000円/m² 程度が一般的な目安)まで織り込んで実質を計算できている購入者は、現場感では少数派です。
④出口戦略がないまま購入
「どうなったら売るか」「どうなったら保有し続けるか」を想定せずに購入してしまうケースです。
キャッシュアウトが続いたときに心理的に耐えられず、投げ売りしがちです。
残債割れによる自己資金の持ち出しの可能性が高くなります。
自分はどちら側か ── チェックリスト
検討中の物件について、以下を一つずつ確認してみてください。
これは私が売却相談を受けるときに、最初に確認する項目とほぼ同じです。
賃貸需要が集まる好立地物件を選べる
表面利回りだけに左右されない
空室や修繕の出費を許容できる余力がある
サブリースの "家賃保証" を永続だと考えていない
売却と保有のパターンをそれぞれ想定している
半分以上 "いいえ" が並ぶ場合、購入を急がない方が無難です。
足りない論点を一つずつ埋めてからでも、好立地物件は出てきます。
急かされている時ほど、条件を一つずつ確認してから判断した方が安全です。
判断に迷うときに相談できる仲介・税理士のルートを確保しておくことも有効です。
なぜこの境界線が生まれるのか ── 構造的な背景
得した人と苦しくなった人の境界線が "立地と出口" に集約される理由は、不動産という資産の性質そのものから来ています。
株式投資や為替投資と違って、不動産は一物件ごとに値段が違います。
同じ 東京や京都・大阪の中古マンションでも、最寄り駅・徒歩分数・築年数・管理状態で価格と賃料の振る舞いが全く違います。
市場平均がいくら17ヶ月連続で上昇していても、自分の物件が需要のないエリアにあれば、平均とは逆方向に動きます。
もう一つ、流動性の問題があります。
株式は取引時間中であればいつでも売れますが、不動産は買い手が現れるまで売れません。
好立地物件は買い手が多いので売却までの時間が短く、希望価格に近い値で売れます。
逆に賃貸需要が薄い立地の物件は、売却に半年・1年かかった末に値下げを迫られることもあります。
この2つの性質があるため、不動産投資の損益は "市況" よりも "個別物件の質" に大きく依存します。
市場全体の追い風があっても、個別物件の質が悪ければ苦しくなる。
逆に市況が横ばいでも、好立地で長期保有すれば家賃と元本返済で着実に資産化が進む。
境界線が立地と出口に集約されるのは、この構造から必然です。
まとめ ── 境界線は "物件選定の精度" と "出口設計"
最後にもう一度、論点を圧縮します。
マクロでは首都圏中古マンションの平均成約価格は17ヶ月連続で上昇しており、長期で持ち続けた人は資産形成できています。
一方で、20代の投資マンション相談は5年で2.5倍に増えており、苦しくなった人も確実に増えています。
同じ市場の中で二極化が起きているのが現在地です。
得しやすい人の条件は、
・好立地
・賃貸需要
・長期保有前提
・出口設計
・持ち出し許容度
の5つ。
苦しくなりやすいパターンは、
・販売経費込みの高値掴み
・サブリース依存
・表面利回りの鵜呑み
・出口戦略の不在
の4つ。
境界線は、運ではなく購入時の条件と保有戦略にあります。
判断軸は、立地と賃貸需要、そして出口の設計 ── ここを外さなければ、投資として期待値が高い、というのが私の結論です。
このスタンスの全体像は条件付きで考える不動産投資でまとめています。
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