減価償却で給与所得を圧縮する仕組み ── 本当に得する人の条件をフェアに整理する

2026-05-23

不動産投資の販売現場で、もっとも頻繁に使われるフレーズの一つが「節税できます」です。
給与所得が高い方ほど刺さりやすいトークですが、効く人と効かない人の線引き、減価償却が終わった後の話、売却時の "裏側" まで含めて理解しないと、節税ストーリーは途中で破綻します。

本記事では、国税庁の一次ソースと税制をベースに、減価償却による節税の仕組みを整理しながら、"本当に得する人" の条件をフェアに切り分けます。
結論を先に置くと、節税は副次効果であり、本来の判断軸はあくまで立地と賃貸需要です。

著者の立場 ── 税務商品も保険商品も売らない仲介の立場

私は元京都ワンルームマンションデベロッパーのトップ営業を経て、現在は ONZA Estate の代表として、好立地の区分マンションを中心とした投資用物件の仲介を行っています。

売る側にいた時代、「節税できます」を強調する販売トークも、その裏側で実際にどう税負担が動くかも、両方を見てきました。
節税効果はメリットの1つですが、商品の主役にしてはいけない論点だと、現場で何度も痛感した部分でもあります。

今は売り手のポジションから離れて、仲介の立場で物件を扱っています。
税務商品も保険商品も販売しないため、節税効果のリアルをフラットに整理できる立場にあります。

本記事は "節税できる/できない" の極論ではなく、"どこまで・誰に・どの条件で効くのか" を一次ソースベースで分解する内容です。
なお、個別の税務判断は必ず税理士に確認することをおすすめします。

なぜ会計上の赤字が生まれるのか ── 減価償却・損益通算・限界税率

節税ストーリーは、3つの仕組みの組み合わせで成立しています。
順番に分解していきます。

減価償却とは何か

減価償却とは、建物などの取得価額を、法定耐用年数にわたって少しずつ費用計上していく会計処理です。
住宅用の法定耐用年数は以下のとおりです。

構造法定耐用年数
木造22年
鉄骨造(肉厚により変動)19〜34年
RC造(鉄筋コンクリート造)47年
SRC造47年

中古資産は、国税庁の簡便法で残りの耐用年数を計算します。
例えば、築10年のRC造物件なら、簡便法上の耐用年数は39年です。
建物価格1,000万円なら、年間の減価償却費は約26万円です。

ポイントは、減価償却費は実際の現金支出を伴わない "帳簿上の費用" だという点です。
つまり、キャッシュフロー上はお金が出ていかないのに、会計上だけ費用として落とせる ── これが "会計上は赤字、キャッシュフローは黒字" という状態を生み出します。

損益通算の仕組み

不動産所得は総合課税の対象で、不動産所得の赤字は、一定の制限を除き、給与所得や事業所得など他の所得と相殺できます。
これを損益通算と呼びます。

会社員の方が不動産投資で会計上の赤字を出した場合、その赤字分だけ給与所得が圧縮され、所得税・住民税が減るという流れになります。

ただし、これは逆方向にも同じように働きます。
不動産所得が黒字になった場合は、その黒字分が給与所得と合算されて課税されるため、限界税率で追加の税負担が生じます。
"赤字なら節税・黒字なら追加課税" という対称性を持っている点は、押さえておくべきです。

限界税率と節税効果の関係

どれだけ節税できるかは、その方の限界税率次第です。
限界税率とは "次の1万円の所得に対して、いくら税金がかかるか" を示すもので、課税所得が高いほど高くなります。

限界税率30%の方が100万円の不動産所得赤字を出した場合、約30万円の税負担軽減効果になります。
限界税率43%の方なら、同じ100万円の赤字でも約43万円の軽減です。

同じ物件・同じ減価償却費でも、買う人の年収帯によって節税効果がまったく違うのは、ここに理由があります。

数値で見る ── 課税所得帯別の節税効果と累積シミュレーション

課税所得帯別の限界税率(2026年度)

国税庁の所得税率と総務省の住民税標準税率(10%)を合算した限界税率は以下のとおりです。

課税所得帯所得税率住民税率限界税率(合計)
195万円以下5%10%約15%
195〜330万円10%10%約20%
330〜695万円20%10%約30%
695〜900万円23%10%約33%
900〜1,800万円33%10%約43%
1,800〜4,000万円40%10%約50%
4,000万円超45%10%約55%
上記に加え、復興特別所得税(所得税額の2.1%)が上乗せされます。
例えば限界税率30%帯の場合、所得税20% × 1.021 + 住民税10% = 約30.42% が実効的な数字になります。

税率面だけを見ると、課税所得330万円超から節税効果が見えやすくなります。
これは給与収入ベースだと、扶養や控除にもよりますが、おおむね年収700万円超のゾーンです。
ただし、購入判断は物件条件と出口まで含めて見る必要があります。

モデル試算 ── 築10年RC造物件での減価償却

具体的な数字で見ていきます。
仮に、築10年のRC造物件を2,250万円で取得し、内訳が建物価格1,000万円・土地価格1,250万円だったとします。

簡便法上の耐用年数:39年

年間減価償却費:1,000万円 ÷ 39年 = 約26万円/年

仮に、家賃収入と他の必要経費(管理費・修繕積立金・金利・固定資産税など)が差し引きほぼゼロで、減価償却費26万円分だけ会計上の赤字が出るケースでは、給与所得と損益通算した場合の節税効果はこうなります。

課税所得帯限界税率年間節税額
330〜695万円約30%約7.8万円
900〜1,800万円約43%約11.2万円
1,800〜4,000万円約50%約13万円
給与収入の目安は家族構成や控除で大きく変わるため、表内は課税所得帯のみ記載しています。
あくまでモデル試算で、建物価格比率・諸経費按分・他の運営経費・金利・空室率により実際の数字は変動します。

30年累計の3パターンシミュレーション

上記モデルを30年に伸ばすと、課税所得帯ごとの累計節税額は概算で以下のようになります。
仮に同じ税率と赤字額が続けば、という前提です。
実際は収入・税率・金利・修繕費・売却時期で変わります。

パターン課税所得帯年間節税額39年累計(減価償却期間)
A330〜695万円約7.8万円約304万円
B900〜1,800万円約11.2万円約437万円
C1,800〜4,000万円約13万円約507万円

ただし、これは保有期間中の "税金繰り延べ" の総額です。
後述するとおり、減価償却で簿価が下がる分、売却時の譲渡所得が増えて課税されるため、ネットの節税額はこの数字より小さくなります。

経費計上できる項目 ── 減価償却だけじゃない

節税ストーリーの主役は減価償却ですが、それ以外にも経費計上できる項目は複数あります。
不動産所得の必要経費として代表的なものは以下です。

管理費・修繕積立金

賃貸管理委託料

固定資産税・都市計画税

火災保険料・地震保険料

ローン金利部分(元本返済は経費にならない点に注意)

修繕費・原状回復費・設備交換費

物件運営に直接関係する交通費・通信費(私的利用分は除き、業務との関係を説明できる範囲に限ります)

司法書士報酬・確定申告のための税理士報酬

会社員の給与収入では、事業の必要経費のように個別の支出を広く差し引けるわけではありません。
不動産所得を得るために必要な支出は、一定の範囲で必要経費にできます。
これが "不動産投資で給与所得を圧縮できる" と言われる仕組みの実態です。

なお、ローンの返済額のうち、経費になるのは利息部分のみで、元本部分は経費になりません。
これは初学者の方がよく勘違いするポイントなので、押さえておくべき点です。

注意点 ── 土地分の金利と売却時の税金

ここからは、販売現場ではあまり丁寧に語られない "裏側" の話です。
節税ストーリーには、3つの落とし穴があります。

赤字の場合、土地等取得借入金利子は損益通算の対象外

税制上、不動産所得が赤字になる場合、その赤字のうち土地等の取得に対応する借入金利子部分は、給与所得などとの損益通算の対象外になります。
これは平成4年(1992年)の税制改正で、バブル期の過度な土地投機による節税スキームを抑制する目的で導入されました。

減価償却の "裏側" ── 売却時の譲渡所得

減価償却を続けていくと、帳簿上の簿価(取得価額 - 累計償却額)は年々下がっていきます。
そして売却時の譲渡所得は "売却価額 - 簿価 - 譲渡費用" で計算されます。

つまり、減価償却した分だけ簿価が減り、その分だけ売却時の譲渡所得が増えるという関係です。
長期譲渡所得は、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える場合に適用され、税率は20.315%です。
なお、譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり、税率は39.63%です。

言い換えると、減価償却による節税は "税金が消える" のではなく、"課税のタイミングを将来に繰り延べている" というのが実態に近いです。
もちろん、保有期間中の限界税率(30〜55%)と売却時の長期譲渡税率(20.315%)の差を取れるなら、税率差の分はネットで得になります。
ただし、その前提として "売却時にきちんと出口を取れる物件" であることが必須です。

出口の話は別記事で詳しく整理しています → 不動産投資の出口を一次データで整理した記事

減価償却の終わり

簡便法で算出した耐用年数を超えると、減価償却は終了します。
築10年RC造で取得した場合、購入から39年が経過すると、それ以降は減価償却費を計上できなくなります。

減価償却が終わると、それまで会計上赤字だった不動産所得は黒字に転じやすくなります。
つまり節税効果が減衰し、逆に不動産所得分の課税が発生し始めます。

具体的には、家賃収入から固定資産税・管理費・修繕費などの実費だけを差し引いた残額が、給与所得と合算されて課税されます。
仮に年間の不動産所得が黒字、50万円になり、限界税率30%の方であれば年約15万円、限界税率43%の方であれば年約21.5万円が新たに税負担として乗ってきます。
節税が効いていた時期と逆の方向に動くため、減価償却が終わるタイミングでの出口(売却or保有継続)の判断は、より重要になります。

このタイミングで 賃貸が安定せず"持て余す物件" になってしまうと、節税メリットが消えた後にキャッシュフローだけが残り、出口も取りにくいという状態に陥る可能性があります。

本当に節税が効く人の条件

ここまでの整理を踏まえて、減価償却による節税が "本当に効く" 人の条件をリスト化します。

課税所得330万円超(限界税率30%以上)

安定した本業収入があり、損益通算メリットを取り続けられる

減価償却が終わった後の出口戦略(売却・保有継続)を設計できる

節税目的 "だけ" で物件を選んでいない(立地・賃貸需要を最優先)

土地分の借入利子は損益通算の対象外になる点を理解している

売却時の譲渡所得税まで含めて、トータルの税負担を把握している

税理士に確認しながら確定申告できる体制がある

逆に、節税効果を "過大評価しないほうがいい" のは以下のような方です。

課税所得が低く、限界税率が20%以下の方(節税額が小さく、購入諸経費を回収しにくい)

物件選びの判断軸が "節税できるかどうか" に偏っている方

売却時の譲渡所得税負担まで考慮できていない方

減価償却終了後の出口を考えていない方

年収帯が低い段階で "節税のために不動産投資を" という提案を受けた場合は、いったん立ち止まることをおすすめします。
限界税率が低ければ節税額も小さく、購入時の諸費用や運営コストを節税だけでカバーするのは現実的に難しいケースが多いです。

まとめ ── 節税は "副次効果"、判断軸は立地・賃貸需要

減価償却と損益通算による節税は、条件が合えば確かに効きます。
ただし、その効き方には明確な条件があります。

高所得者(限界税率30%以上)ほど効きやすく、低所得層には恩恵が小さいです

土地分の借入利子は損益通算の対象外です

減価償却が終わると節税効果は減衰し、不動産所得が黒字化しやすくなります

売却時には簿価が下がっており、譲渡所得税で一部が再課税されます

この4点を理解した上で、節税効果を "副次的なメリット" として位置付けるのが、フェアな見方だと考えます。

節税効果 "だけ" を期待して物件を買うと、出口で苦労する可能性が高いです。
本来の判断軸は、あくまで立地と賃貸需要の強さです。
好立地で賃貸需要が安定している物件ほど、減価償却が終わった後も家賃下落を抑えやすく、売却時の流動性も確保しやすい傾向があります。
逆に、立地が弱い物件は、節税が効いている間はキャッシュフローを補ってくれますが、節税効果が切れた瞬間に "ただの持て余し物件" に変わるリスクがあります。

"節税できるから買う" ではなく、"立地と需要で買って、結果として節税も乗ってくる" ── この順番が大切です。


個別の課税所得・物件・条件によって、減価償却の効き方は大きく変わります。
最終的な税務判断は税理士への確認が前提ですが、その前段階の整理として、"自分の年収帯で、どの程度の節税効果が見込めるか" "検討中の物件で、節税以外の判断軸はどうか" などのご相談があれば LINE からお気軽にお問い合わせください。
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