利回り表示の見方 ── 表面利回りと実質利回りはこんなに違う
2026-05-31
ポータルサイトや物件広告に並ぶ "利回り○%" という表示。
その大半は "表面利回り" で、年間家賃収入を物件価格で割っただけの数字です。
管理費や修繕積立金、固定資産税などの保有中の費用や、購入時の諸費用を反映していません。
表面利回りは比較のための入口の数字で、それ自体が悪というわけではありません。
ただ、入口の数字を実態と思い込むと、買った後で "思っていたのと違う" となりやすいです。
本記事では、関西の数字で表面と実質の差を試算しながら、自分で実質に引き直して見る習慣をお渡しします。
著者の立場
ONZA Estate代表の飯田です。
ONZA Estateの代表として、好立地物件を中心とした投資用不動産の仲介を行っています。
京都のワンルームマンションデベロッパーで営業をしていた時期があり、新築・中古の投資用物件の販売現場で利回りの提示の仕方を見てきました。
広告に出る表面利回りは、買い手が物件を横並びで比較するための入口の数字です。
現場では、その先で必ず諸経費を引いた実質利回り、さらに月々のキャッシュフローや長期の元本返済まで引き直して見ていました。
この記事は、その "引き直し方" を読者の方にお渡しする内容です。
表面利回りと実質利回りの違い
まず定義を整理しておきます。
| 項目 | 計算式 | 含まれるもの |
|---|---|---|
| 表面利回り | 年間家賃収入 ÷ 物件価格 × 100 | 家賃と価格だけ |
| 実質利回り | (年間家賃収入 − 年間運営費) ÷ (物件価格 + 購入時諸費用) × 100 | 運営費・諸費用も反映 |
実質利回りは、空室率や修繕費の見込みをどこまで入れるかで数字が変わります。
本記事では、保有中に想定される費用を年間運営費としてまとめて扱います。
表面利回りは "グロス利回り" とも呼ばれ、家賃と価格だけで計算されます。
シンプルなので物件同士を横並びで比較しやすく、広告で揃えるには都合がいい数字です。
一方、実質利回りは "ネット利回り" とも呼ばれます。
分子から年間運営費を引き、分母に購入時諸費用を乗せるので、実際に投じた総額に対してどれだけ手元に残るかに近い数字です。
両者の差は、一般に1〜2ポイント以上開くことが多く、物件によっては2ポイント以上開くケースもあります。
表面で4〜5%に見えても、実質では3%前後、場合によっては2%台に着地することもあります。
なぜ広告は表面利回りなのか
ここで "なぜ広告は表面で出すのか" を整理しておきます。
これを誤解すると、広告表示そのものを敵視してしまうので、構造として理解しておきたいです。
理由の一つは、運営費が物件・オーナー・運用方針によって変わることです。
管理費・修繕積立金は物件ごとに違い、賃貸管理手数料は管理会社との契約形態で変わり、修繕費の見込みも所有者の判断で幅が出ます。
広告に "標準化された実質利回り" を載せようとしても、前提を揃えるのが難しいです。
もう一つは、広告表示が "不動産の表示に関する公正競争規約" によって規制されている点です。
規約は不当表示や誇大広告を禁止しており、広告で利回りを出す場合は、前提を明示したうえで、家賃と価格だけで計算する表面利回りが使われることも多いです。
つまり、表面表示そのものは "騙し" ではなく、共通のものさしです。
その上で、最終的な判断は実質に引き直して行う ── ここが本記事で渡したい構造です。
実際に試算してみる(関西の例)
言葉だけで説明しても感覚が掴みにくいので、関西エリアを想定した試算で見ていきます。
以下はあくまでモデル試算です。物件・金利・賃料・税率・空室率・修繕費により実際の数値は変動します。
試算例:京都市中心部の中古ワンルームを想定
物件価格:2,000万円
月額家賃:7.2万円(年間86.4万円)
購入時諸費用:物件価格の約7%=140万円
年間運営費:年間家賃の約25%=21.6万円(管理費・修繕積立金、固定資産税、賃貸管理手数料、空室・修繕見込みを合算)
この条件で計算してみます。
表面利回り=86.4万円 ÷ 2,000万円 × 100 = 約4.3%
実質利回り=(86.4万円 − 21.6万円) ÷ (2,000万円 + 140万円) × 100 = 64.8万円 ÷ 2,140万円 × 100 = 約3.0%
表面では4.3%に見えていた物件が、実質では3.0%前後に落ちます。
差は約1.3ポイントです。
このように、表面の数字をそのまま受け取ると、手元に残る実態より1ポイント前後高く見えます。
新築では購入時諸費用の割合が大きくなりやすく、実質がさらに下がる試算もあります。
表面利回りから抜けている費用
では、表面利回りから抜けている費用には何があるのか。
整理しておきます。
購入時にかかる費用(物件価格の5〜10%が目安)
仲介手数料(2024年7月改定後、800万円超は "価格(税抜) × 3% + 6万円 + 消費税" が上限)
不動産取得税(住宅の床面積など一定要件を満たす場合、軽減措置の対象になることがあります)
登録免許税
印紙税
司法書士報酬
ローン事務手数料・保証料
火災保険料
固定資産税等の日割り清算金
これらの合計が、物件価格の5〜10%前後になることが多いです。
2,000万円の物件なら100〜200万円の幅で、実質利回りの分母を押し上げる要素です。
保有中にかかる費用(年間家賃収入の20〜30%が目安)
管理費・修繕積立金
賃貸管理手数料(家賃の5%前後が一つの目安。集金管理のみなら3%程度、サブリースの場合はより高くなることも)
固定資産税・都市計画税
原状回復・修繕費
入居者募集費(AD・広告料など)
空室損
サブリースの場合は、入居者家賃とオーナーに支払われる借上げ賃料の差額が10〜20%程度になることもあり、その分だけ実質利回りは下がります。
これらをまとめて、家賃収入の20〜30%が保有中の運営費として消えていく ── これが "実質" の世界です。
高すぎる利回りには理由がある
ここで、もう一つ大事な視点を入れます。
表面利回りが相場より突出して高い物件には、理由があることが多いです。
価格が安い背景には、市場から安く評価される理由が隠れていることも多いです。
具体的には、次のような背景が考えられます。
賃貸需要が薄い立地(駅から遠い、人口減少エリアなど)
築年が古く、設備更新コストが見込まれる
旧耐震基準(建築確認日が1981年5月31日以前の建物)で、融資が付きにくい
管理組合の運営や修繕積立金の積み立てが不十分
サブリースの保証賃料をもとにした利回り表示
旧耐震物件は、金融機関の融資審査で不利になりやすく、自分が買うときも、出口で売るときも、買い手が限られやすいです。
結果として流動性が下がりやすいので、出口で値下げを迫られやすい傾向があります。
なお、旧耐震・新耐震の判定は竣工年月だけでは判断できないため、建築確認日を確認します。
サブリースの場合、保証賃料をもとに高く見えている利回りにも注意が必要です。
家賃保証で出ている賃料は永続ではなく、契約条件で見直される可能性があります。
保証賃料をもとに組まれた表面利回りは、保証条件が変わると一気に成立しなくなることがあります。
サブリースの構造的なリスクについては別記事で詳しく扱っているので、関心があれば家賃保証30年の罠を読んでみてください。
高利回りは "リスクの対価" であることが多いです。
表面の高さだけで飛びつかず、なぜその利回りが出ているのかを確認する習慣を持ちたいところです。
家賃と売却価格
もう一段、構造の話を入れます。
これは、私が不動産投資で特に大事にしている部分です。
投資用物件の売却時には、買い手の多くが投資家です。
投資家が大きな判断材料にすることが多いのが "利回り" です。
"年間の想定家賃 ÷ 期待利回り" に近い形で物件の評価額が組み立てられることもあります。
ここで効いてくるのが、賃貸需要の太さです。
賃貸需要が太い立地は、家賃が下がりにくいです。
そうすると、保有中の実質利回りが維持されやすく、さらに売却時の評価額(想定家賃ベースで組み立てられることが多い)も維持されやすい構造になります。
逆に、賃貸需要が薄い立地は、家賃が下がりやすく、実質利回りも下がっていきます。
家賃が下がると、投資家の利回り評価で算出される売却価格も下がりやすく、保有中と出口の両面で不利が重なります。
だからこそ、表面利回りの高さだけでなく、 "その家賃が10年後・20年後も維持できる立地か" という視点が、実質利回りを長期で守るうえで効いてきます。
家賃下落のカーブは築年と立地で大きく変わるので、関心があれば家賃下落カーブの真実もあわせて見てみてください。
利回りチェックリスト
ここまでの内容を、物件広告を見たときに使える形にまとめます。
その利回りが表面か実質かを確認できる
管理費・修繕積立金・固定資産税など保有中の費用を引いて考えられる
購入時諸費用(物件価格の5〜10%)を総投資額に乗せて考えられる
相場より高い利回りについて、その理由(立地・築年・耐震・サブリースの有無)を確かめられる
家賃水準が長期で維持できる賃貸需要のある立地かを意識できる
これらを意識して広告を見ると、 "利回りの数字" ではなく "その数字が成り立つ構造" に目が行くようになります。
表面の高さに振り回されにくくなる、というのが本記事で渡したい一番のポイントです。
利回りだけでは見ない
ここで誤解されやすい点を一つ補足しておきます。
実質利回りが3%前後だと、それだけ見れば "全然儲からない" と感じる方もいるはずです。
ただ、不動産投資の本領は、利回りの数字だけで測れません。
不動産投資は、家賃収入から運営費とローン返済を引いた手残りに加えて、毎月の返済の中で進む元本返済が積み上がっていく構造です。
株式投資や為替投資のように現金の値動きだけで成果を見るのではなく、レバレッジ(融資)を時間軸で活用しながら、家賃インカムと元本返済の積み上げで時間を味方につけるのが、不動産投資の本領です。
したがって、月々のキャッシュフローが薄かったり、場合によっては小幅な赤字になっていても、長期で見れば資産が積み上がっていくケースは十分にあります。
この構造の詳細はなぜ "毎月赤字" でも不動産投資が成立するのかで詳しく扱っているので、利回りの数字に違和感が残った方はあわせて読んでみてください。
つまり、実質利回りが低いから即ダメ、ではありません。
大事なのは、 "その実質利回りが、長期で維持できる立地・物件か" "自分の属性・自己資金で長期保有に耐える設計になっているか" という点です。
まとめ
本記事の要点を整理します。
広告に並ぶ利回り表示は、ほぼ表面利回り
表面と実質の差は、一般に1〜2ポイント以上開くことが多い
表面表示は "不動産の表示に関する公正競争規約" のもとで使われている入口の数字で、悪ではない
実質に引き直す ── 家賃から運営費(年間家賃の20〜30%)を引き、価格に購入諸費用(5〜10%)を乗せる
高すぎる利回りには理由があることが多い。立地・築年・耐震・サブリースなど、安い理由を確かめてから判断する
賃貸需要が太い立地は、家賃が下がりにくく、実質利回りも売却価格も維持されやすい
実質利回りの数字だけで成立を判断せず、長期保有での元本返済の積み上げまで含めて見る
数字を "読める" ようになると、表面の高さに振り回されなくなります。
広告の利回りを否定する必要はなく、自分で実質に引き直す習慣を持つだけで、判断の解像度は大きく変わります。
ご相談
検討中の物件の利回りを実質で見たい、購入諸費用と保有中の運営費を引いて手残りを一緒に確認したい、相場より高い利回り表示の物件について "その高さの理由" を整理したい ── そうしたご相談を受け付けています。
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