相続対策としての不動産投資 ── 効くケース・効かないケース

2026-05-28

不動産には、相続税評価額を圧縮する仕組みが組み込まれています。
土地は路線価、建物は固定資産税評価額で見られ、さらに賃貸に出していれば追加の減額がかかる ── これが "相続対策に不動産" と言われ続けてきた理由です。

ただ、賃貸経営として成立しない物件を評価額の圧縮目的だけで持つと、相続した家族の方がむしろ困るケースが少なくありません。
本記事では、相続対策として効くケース・効かないケースの境界線を整理していきます。

不動産の相続税評価額の圧縮効果は確かに存在します。
ただし、それが意味を持つのは "賃貸経営として独立して成立する物件" を選んだ場合に限られます。
"対策だけ" を目的に借入を膨らませる設計は、近年の制度改正の流れも踏まえると、むしろリスクが高いです。

著者の立場

この記事を書いているのは、ONZA Estate 代表の飯田舜平です。
元々は京都のワンルームマンションデベロッパーでトップ営業を経験し、現在は ONZA Estate の代表として、好立地物件を中心とした投資用不動産の仲介を行っています。

相続まわりの相談は、購入時点の話だけではありません。
"親が買った投資用物件を相続したけれど、家賃が入らず売れない"、"相続税対策として勧められた物件を持っているが、このまま渡していいのか不安" ── こうした既保有のご相談も多いです。

そこで見えてくるのは、相続税評価額の圧縮幅そのものよりも、"渡した後に賃貸経営として回るかどうか" が、相続対策としての成否を分けているという現実です。
本記事はその視点から、相続対策と不動産投資の関係を整理していきます。

評価額が下がる仕組み

まずは前提として、なぜ不動産を持つと相続税評価額が下がるのか、その仕組みを最小限に整理しておきます。

項目評価の目安
土地路線価ベース(時価のおおむね8割程度)
建物固定資産税評価額(建築費の5〜7割程度)
賃貸中の土地(貸家建付地)自用地評価額から、借地権割合×借家権割合×賃貸割合に応じて減額
賃貸中の建物(貸家)固定資産税評価額から、借家権割合×賃貸割合に応じて減額

満室に近い前提なら、建物は通常30%程度の評価減が見込まれます。
つまり、現金1億円をそのまま相続するより、その1億円で賃貸不動産を購入して相続するほうが、相続税評価額としては数千万円単位で下がることがあります。

これに加えて、一定要件を満たす賃貸物件の敷地には 小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等) が使える場合があり、200㎡までの部分について土地の評価額を50%減額できます。
なお、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等は原則対象外ですが、一定の例外もあります。

また、購入時にローンを組んでいれば、借入残高は 債務控除 として相続財産から差し引けます。
ただし、団体信用生命保険付きのローンは被相続人の死亡時に残債がゼロになるため、債務控除の対象にはなりません。
投資用ローンでも団信の有無や保障範囲は金融機関・商品によって異なるため、債務控除との関係も含めて個別確認が必要です。

仕組みとしての圧縮効果は、確かに存在します。
ただし、ここから先が本題です。"評価額が下がる物件=相続対策として成功しやすい物件" とは限りません。

相続後の現実

ここがこの記事の中心です。
相続後に困るかどうかは、賃貸需要で大きく分かれます。

相続税評価額の圧縮は、あくまで "数字上の話" です。
実際に相続人が直面するのは、その物件を所有し続けることになる現実の方です。

相続人が直面する3つの現実

① 流動性が低い ── 売りたくても売れない

不動産は株式や為替と違い、買い手が現れるまで売れません。
賃貸需要が弱いエリアの物件は、相続後に "現金化して兄弟で分けたい" と思っても、買い手がつかないケースが多いです。
急いで売ろうとすれば、相場より大きく値下げを迫られることになります。

② 賃貸需要が薄い ── 家賃が入らない

相続税評価額の計算上は "貸家" として減額されていても、実際に借り手がつかなければ家賃収入は入りません。
空室期間が長引けば、相続人は自己資金から各種コストを払い続けることになります。

③ 保有しているだけでコストが出ていく

固定資産税、管理費、修繕積立金、ローンが残っていれば返済 ── これらは家賃が入ろうが入るまいが、毎月発生します。

この3つが重なると、いわゆる "負動産化" が起きます。
相続税評価額は確かに下がった、しかし手元に残ったのは "売れない・貸せない・コストだけ出ていく物件" ── これでは相続人に負担を残す結果になりかねません。

投資用物件の売却価格は、家賃が支える

もう一つ押さえておきたいのが、投資用物件の売却ロジックです。
投資用物件の買い手は投資家であることが多く、投資家が大きな判断材料にすることが多いのが "利回り" です。

"想定家賃 ÷ 期待利回り" に近い形で物件評価額が組み立てられることもあるため、家賃水準が売却価格を支える構造になりやすいです。
賃貸需要が薄い物件は、家賃が下がりやすく、投資家から見た評価も弱くなりやすいため、売却価格にも影響が出ることがあります。

逆に、賃貸需要が集まる好立地物件は二重に強いです。

家賃自体が下がりにくい(賃貸市場での競争力)

売却時の評価額も維持されやすい(投資家の利回り評価で価格が支えられることが多い)

つまり、相続後に "家賃を取り続ける" も "売却して現金化する" もどちらの選択肢も残せる物件 ── それが本当の意味での相続対策に耐える物件です。

相続税評価額が下がるかどうかは、物件選びの "結果" であって "目的" ではない、というのが私の基本スタンスです。
賃貸経営として独立して成立する物件を選んだ結果、評価額の圧縮もついてくる ── この順序を逆にすると、相続人が苦労します。

相続対策でも、結局は長期で賃貸経営が成立するかが重要です。
賃貸経営として成立する物件を選ぶことの本質については、
なぜ "毎月赤字" でも不動産投資が成立するのか で詳しく書いています。

効くケース/効かないケース

ここまでの話を踏まえて、相続対策としての不動産投資が "効くケース" と "効かないケース" を整理します。

観点効くケース効かないケース
課税圏基礎控除を超える資産規模で、現に相続税が発生する見込みそもそも基礎控除内に収まり相続税が発生しない
物件の立地・需要賃貸需要が集まる好立地、家賃が下がりにくい賃貸需要が弱いエリア、借り手がつきにくい物件
購入の動機賃貸経営として成立する物件を選んだ結果、圧縮効果もついてくる"対策だけ" を目的にした借入購入
相続人の合意物件の方針が概ね共有されている相続人が複数で方針未統一、共有名義リスク

課税圏かどうかの確認

相続税の基礎控除は 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数 です。
たとえば法定相続人が3人なら、基礎控除は4,800万円です。

この基礎控除を超えない見込みなら、そもそも相続税は発生しません。
"相続税対策" を目的に高額な不動産を購入する必然性が薄いケースもあるため、まずは現状の資産規模で課税圏に入っているかを把握することが先決です。

"効かないケース" の典型

現場で見ている "効かないケース" は、次のようなパターンが多いです。

課税圏ではないのに "節税のため" と勧められて購入してしまった

賃貸需要が薄いエリアの物件を、評価額の数字だけ見て選んでしまった

借入を最大化することで債務控除を狙ったが、賃貸が想定通り回らず返済が苦しい

相続人が複数いるのに共有名義で残してしまい、処分の合意が取れない

このいずれかに当てはまる場合、相続対策としての効果よりも、相続人を苦しめるリスクの方が大きくなる可能性があります。

関連する税制の確認

税制の流れを押さえておきます。

2024年 区分マンション評価ルール改正

2024年から、居住用の区分所有財産について、築年数・総階数・所在階・敷地持分狭小度などをもとに評価乖離を補正するルールが入りました。
評価水準が一定以下と判定される場合、理論上の市場価格に近づくよう補正されるため、相続税評価額と市場価格の乖離は以前より縮まりやすくなっています。

暦年贈与の生前贈与加算 3年→7年に延長

2024年以降の贈与から、相続開始前の贈与を相続財産に加算する期間が、従来の3年から段階的に7年へ延長されました。
生前贈与による相続財産の圧縮効果は、以前より計画的に進める必要が出てきています。

取得費加算の特例

これは相続人側の話ですが、相続した不動産を相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(通常は相続開始から3年10ヶ月以内)に売却する場合、支払った相続税の一部を取得費に加算して譲渡所得を計算できる仕組みがあります。
相続後の売却を視野に入れる場合は、この期限も意識しておきたいところです。

全体トレンドとしては、"形式的に評価額を下げるだけ" の対策は通用しにくくなっています。
だからこそ、賃貸経営として実態のある物件を選ぶことの重要性は、むしろ高まっています。
個別の税額計算や適用判断については、税理士などの専門家にご確認ください。

運用設計のチェックリスト

ここまでの話を、購入検討中の方・既保有の方の両方に向けたチェックリストにまとめます。

資産規模と基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人数)を把握できている

賃貸需要が集まる好立地を選べる

借入をするなら、返済可能な範囲に抑えられる

相続人と保有・売却の方針を共有できている

売却と保有のパターンをそれぞれ想定できている

5項目すべてに自信を持って "はい" と言えるなら、その物件は相続対策としても十分機能する可能性が高いです。
逆に "はい" と言えない項目があるなら、その項目こそが、相続後にリスクとして顕在化する論点です。

まとめ

本記事の論点を整理します。

不動産には相続税評価額を圧縮する仕組みが存在し、路線価・固定資産税評価額・貸家建付地評価減・貸家評価減・小規模宅地等の特例・債務控除などが組み合わさって成立しています

ただし、それは "賃貸経営として成立する物件" を選んだ前提で意味を持ちます

賃貸需要が薄い物件を相続税評価額の圧縮目的だけで購入することは、相続人に "負動産" を残すリスクと表裏一体です

評価額の圧縮を目的化した借入設計は、近年の評価ルール改正の流れも踏まえると、相続人に返済と維持の負担を残しやすくなります

"相続に渡せる資産" を本当に作りたいなら、賃貸需要が集まる好立地で、収益物件として独立して成立する物件を選ぶこと

その結果として相続税評価額の圧縮効果もついてくる ── この順序が、長期的に見て相続対策として機能します

相続対策としての不動産投資は、"効くケース" と "効かないケース" の境界線が明確に存在します。
境界線を分けているのは、税制上のテクニックではなく、賃貸経営としての実態です。
ここを取り違えなければ、不動産は "渡せる資産" として確かに機能します。


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なお、具体的な相続税額計算や税務判断は、税理士などの専門家確認が必要です。

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