世界の年金、運用配分を柔軟にーー株・債券の同時安が頻発、固定比率を見直し|ONZA的市況ニュース
2026-08-07

記事内容:カルパースが固定配分を廃止、柔軟な運用へ
2026.8.7の日経新聞で、世界の大手年金が伝統的な資産配分の手法から脱却し始めたことが報じられました。
米国最大級の公的年金カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)は7月、資産ごとの配分比率を廃止しました。
株式と債券の関係性の変化などを踏まえ、運用を柔軟にして、リターンを安定的に確保する狙いです。
カルパースが始めたのは、トータル・ポートフォリオ・アプローチ(TPA)と呼ばれる運用手法です。
「資産ごとに決められた配分に固執せず、個々の投資戦略が資産全体にどう利益をもたらすか柔軟に評価できるようになる」と説明しています。
総資産は6月末で6300億米ドル(約100兆円)に達し、世界の年金への影響力が大きい存在です。
これまでは上場株式4割、債券3割などとする配分目標がありましたが、これを廃止。
今後は、株式75%・債券25%の参照ポートフォリオを運用リスクの目安とし、リスクが規定内に収まれば、市場環境に応じて株式などリスク資産の比率を9割に高めることも可能になります。
逆に、株式や債券との相関性が低い非上場資産の割合を増やし、変動幅の抑制を図ることもできます。
TPAを採用する基金は非上場資産への投資が多い傾向がある、との分析も紹介されています。
投資委員会では、リスク資産がやみくもに増える恐れがあるとの反対意見もありました。
直近10年間の収益率は年率8%超と好調ですが、年金資産の積み立て不足が続いており、市場環境に応じた配分で収益の上積みが必要だと判断しました。
TPAはカナダ年金制度投資委員会(CPPIB)が2006年に世界へ先駆けて導入し、シンガポール政府系ファンドGICやニュージーランドの政府系ファンドにも広がっています。
なぜ、長年の定石が見直されるのか。
世界の年金は長く、戦略的資産配分と呼ばれる固定の配分を軸にしてきました。
株式と債券は値動きの方向が異なることが多く、市場変動で配分が基準から離れたらリバランス(資産配分の調整)で戻す。
担当者の相場観に基づく判断を排除できる定石とされてきました。
ただ、足元でこの前提が崩れています。
各国でインフレや財政悪化の懸念から、金利が上昇しやすくなっています。
金利が上がると、低い利率で発行された既存の債券は相対的に見劣りし、価格が下落します。
同時に、金利の上昇は企業の資金調達コストや、将来の利益を現在の価値に割り引く際の割引率も押し上げるため、株価の重荷にもなりやすい。
その結果、株式と債券が同時に売られる局面が頻発するようになりました。
主要な世界株指数と世界債券指数の200日の値動きの相関は、足元で0.4と緩やかな正の相関にあります。
両者が同じ方向に動きやすくなっていることを意味し、一方が下落するときにもう一方が上昇することを前提とした固定配分の有効性が低下しています。
加えて、非上場株やインフラ投資など投資先も広がっています。
非上場の資産は日々の売買が容易ではなく、固定配分にリバランスする手法にはそぐいません。
マーサー・インベストメンツの武知昌史氏は「投資資産の多様化で真にとっているリスクが見えづらく、資産を横断した精緻な分析が必要になってきた」と指摘します。
課題も残ります。
運用成果を大きく左右する最高投資責任者(CIO)に権限と責任が集中するため、執行を監視するガバナンス体制の再構築が必要になります。
配分基準からの乖離に重点を置いてきたリスク管理も複雑になります。
各国の動きはさまざまです。
韓国の国民年金公団(NPS)は5月、26年末の韓国株の目標比率を14.9%から20.8%へ引き上げました。
株高が続いた韓国株の比率を、リバランスで引き下げることを意図的に回避したとの見方が広がっています。
一方、世界最大級の公的年金である日本のGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は静観しています。
300兆円に及ぶ資産規模は、独自の見通しに基づいて配分を変える手法としては大きすぎるとの見方が多く、市場を分析・判断するスキルに加え、政治介入を遮断する仕組みも一段と必要になるためです。
カルパースの成否は、世界の市場にとっても大きな焦点になると記事は結んでいます。
株と債券の関係が従来どおりではない、という問題意識は運用会社にも共通しています。
同じ紙面では、英資産運用大手M&Gインベストメンツのファビアナ・フェデリ最高投資責任者(CIO)のインタビューも掲載されています。
従来は地政学リスクが高まる局面では株式が売られ、相対的に安全とされる債券が買われてきたが、目下の中東情勢では株式のリターンが債券を上回り、米国債や金への見方が揺らぎつつあると指摘。
先進国債券は政府債務の拡大によるリスクが高まる一方、株式は人工知能(AI)の台頭で企業がマクロ要因に左右されずに収益成長できるようになったとみています。
そのうえで、株式投資では銘柄数を増やすのではなく、独自の成長要因があり過小評価されている銘柄を厳選すべきだとし、相場のけん引役がいつ変わるかわからないからこそ「ポートフォリオの耐性を強めるためには分散投資が極めて重要だ」と話しています。
ポイント:年金運用の配分見直し
👉 カルパースが資産ごとの固定配分を廃止
総資産約100兆円の米最大級年金が7月、TPAと呼ぶ柔軟な運用手法へ移行しました。
👉 背景は株式と債券の同時安の頻発
世界の株指数と債券指数の相関は足元0.4と、逆に動くという固定配分の前提が崩れています。
👉 相関の低い非上場資産にも関心
TPAを採用する基金は、株や債券と相関性が低い非上場資産への投資が多い傾向があるとされます。
👉 課題はガバナンス、GPIFは静観
CIOへの権限集中を監視する体制が必要で、300兆円のGPIFは規模の大きさもあり静観しています。
不動産との関係:値動きの性質が違う資産を、どう組み合わせるか
今回の記事の出発点は、株式と債券という伝統的な組み合わせだけでは、分散の効果が薄れてきたという変化です。
分散投資が機能するのは、値動きの性質が異なる資産を組み合わせたときで、同じ方向に動くもの同士では下げ場面の守りになりません。
だからこそ世界の年金は、株式や債券とは異なる収益源を持つ非上場資産にも目を向けています。
TPAを採用する基金は非上場資産への投資が多い、という記事の指摘はその表れです。
個人の資産づくりに引き寄せると、現物の不動産は、収益の源泉という点で独自の位置にあります。
株式の収益が企業の業績と市場の評価から生まれ、債券の収益が金利と発行体への信用から生まれるのに対し、賃貸不動産の収益の中心は、駅からの距離や周辺の募集賃料に裏付けられた毎月の家賃です。
収益の源泉が異なるぶん、株式や債券とは異なる要因で動く面があります。
もちろん、不動産も金利や融資環境、地域の需給の影響を受けます。
そのうえで、預金や株式・投資信託に現物の不動産を加えることは、性質の違う一枠を資産全体に持つという意味を持ち得ます。
不動産を組み入れるときも、家賃の裏付けと、資産全体の目的に沿うかどうかを確かめて判断することが大切です。
ONZAとしての整理
カルパースの手法から個人が受け取れるのは、配分の自由度を上げるほど、リスクの物差しが必要になるということです。
カルパースは固定配分を捨てる代わりに、参照ポートフォリオというリスクの目安を置きました。
家計でも同じで、どこまでのリスクなら取れるかという目安を、収入・支出・返済余力から先に決めておくことが、資産の組み合わせを考える出発点になります。
年金基金のような機動的な配分変更を、個人がそのまままねる必要はありません。
何を、いつまで、何のために持つか。
この整理から始めることで十分です。
もう一つ、武知氏の「真にとっているリスクが見えづらい」という指摘は、個人にも通じます。
預金・株式・投資信託・保険・不動産と、お金の置き場所が増えるほど、全体で何にどれだけリスクを取っているのかは見えにくくなります。
ときどき資産全体を横断して眺め、それぞれの値動きの源泉がどこにあるのかを確かめる。
不動産であれば、その源泉は家賃と、それを支える実需です。
資産全体の中での不動産の位置づけを確かめることが、組み合わせの質を上げる一歩になります。
まとめ
👉 記事内容の要点
米最大級の公的年金カルパースが7月、資産ごとの固定配分を廃止し、柔軟なTPAへ移行した
背景には、金利上昇が債券価格と株価の双方の重荷となって同時安が頻発し、逆相関を前提にした固定配分の有効性が低下したことがある
TPAを採用する基金は株や債券と相関性の低い非上場資産への投資が多い傾向があり、韓国NPSは株式比率を引き上げ、GPIFは静観している
分散の要諦は銘柄数ではなく、値動きの性質が異なる資産の組み合わせだと運用者は指摘している
👉 行動指針
分散は数ではなく、値動きの性質と収益の源泉が異なる資産の組み合わせで考える
配分を考える前に、収入・支出・返済余力から、ご自身が取れるリスクの目安を決める
持っている資産を横断して眺め、全体で何にどれだけリスクを取っているかを確かめる
不動産は収益の源泉が家賃にある資産と押さえ、家賃の裏付けと実需を確かめて組み入れる
ご相談について
投資用でご検討の方
資産全体の中で、不動産がどんな役割を担うかから一緒に整理いたします。
検討中の物件については、家賃の裏付けと実需の確認まで含めてご一緒します。
売却をご検討の方
資産の組み合わせを見直す中で、保有物件の位置づけを確かめたい場面もあります。
保有物件の状況とご意向に合わせて、売る・貸す・持ち続けるの選択肢を一緒に確認します。
居住用でご検討の方
住まいは、暮らしやすさと無理のない資金計画で選ぶのが基本です。
家計全体のバランスも含めて、一緒に整理していきましょう。
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